日本ではドライクリーニング溶剤として、石油系溶剤、塩素系のテトラクロロエチレン(パーク)、フッ素系のフロン等が使用されています。この中で、石油系溶剤仕様の機械が極端に多く設備されています(厚生労働省2022年:17,190台、91%)。

 石油系溶剤の機械の占める割合が多い要因は、日本における石油系溶剤から塩素系のパークへの変換時期(1980年代)に世界的にパークの規制が強化されたことによります。さらにフロンによるオゾン層破壊が確認され、ドライクリーニング用フロンの規制が開始されたこと(1989年~)も影響します。

 また、火災の危険性のある石油系溶剤の「消防法」による規制は徹底されましたが、「建築基準法」による用途規制は徹底されず、建築が許可された工業地域以外の地域に、引火性の石油系溶剤のクリーニング工場が建設されたことも大きく影響しています。

日本のドライクリーニング溶剤としての石油系溶剤の特徴

メリット ・取扱表示(洗濯表示)Ⓕ、の洗浄ができる、唯一の溶剤

・油脂溶解力が小さく、比重も小さいため、穏やかな洗浄ができる

・他の溶剤と比較して、人体及び環境への影響が小さい

デメリット 可燃性で、消防法、建築基準法の規制がある

・テトラクロロエチレンより洗浄力が劣る

・乾燥に時間がかかる

・蒸留しにくい

※Ⓕ、に該当する環状シリコーン溶剤(デカメチルシクロペンタシロキサン)は日本ではほとんど使用されていない

石油系溶剤の規制

1. 消防法

 消防法では、クリーニングに用いられる石油系溶剤は危険物であり、「第四類の引火性液体の第2石油類」に分類されます。第2石油類とは、灯油、軽油その他1気圧において引火点が21℃以上70℃未満のものと定義されています。

危険物(消防法別表 抜粋)

類別 性 質 品 名 性 状
第四類 引火性液体  第2石油類 引火点21℃以上70℃未満

   危険物の規制に関する政令では、危険性の高い危険物については指定数量を少なく、危険性の比較的低い危険物については指定数量を多く定められています。引火点が比較的低い第四類の第2石油類の非水溶液体の指定数量は1,000ℓです。

危険物の指定数量(危険物の規制に関する政令別表第三 抜粋)

類別 品 名 性 質 指定数量(ℓ)
第四類 第2石油類 非水溶性液体 1,000

 指定数量未満の危険物については、それぞれの市町村の火災予防条例で規定されています。特に、指定数量5分の1以上指定数量未満(200ℓ≦危険物量<1000ℓ)の危険物は「少量危険物」と呼ばれ、貯蔵及び取り扱い基準が規定されています。

2. 建築基準法

 建築基準法では、用途地域ごとに建築できる建物と、建築してはいけないものが決められています。石油系溶剤のドライクリーニング工場は、準工業・工業・工業専用地域だけにしか建築できません。

建築基準法に基づく用途地域内の建築物の制限(抜粋)

用途地域 建 築 物
第1種、第2種住居地域 引火性溶剤を用いるドライクリーニングの事業を営む工場

・・・建築不可

準住居地域
近隣商業地域、商業地域
準工業地域 石油系溶剤ドライクリーニング施設※・・・建築可
工業地域
工業専用地域

 

石油系溶剤のリスク管理

 石油系溶剤の最大の欠点は、燃焼・爆発範囲があり、引火・爆発の危険性があることです。引火・爆発を防止する基本的な方法は、燃焼の3要素が同時に存在しないようにすることです。

燃焼の3要素 ・可燃性物質(石油系溶剤)・酸素(空気)・着火源(熱)

 自動車のガソリンの場合、燃焼の3要素(ガソリン、空気、着火源)がそろえば、常温の環境でも引火・爆発が起こります。ガソリンの引火点は-43℃以下と低く、常温で蒸発気化し、ガソリンの蒸気濃度が燃焼・爆発濃度範囲の1.4~7.6vol%に入っているため、着火源があれば引火・爆発します。ガソリンスタンドでの給油時は特に注意が必要なわけです。

 一方、ドライクリーニングの石油系溶剤の場合、燃焼の3要素(石油系溶剤、空気、着火源)がそろっても、常温又は引火点(約42℃)以下の温度であれば、蒸発も少なく、石油系溶剤の燃焼・爆発濃度範囲の1~7vol%に入っていないため、引火しません。

 石油ドライ洗浄機の中の液面上には、蒸発した石油系溶剤蒸気があり、ドラム回転時には激しく撹拌され、可燃性の液滴ミストが発生し、着火源があれば引火・爆発の危険性があります。また、石油ドライ乾燥機の中も引火点以上の温度で、蒸発した石油系溶剤蒸気があり、危険な状態です。そのため、燃焼の3要素がそろわないように安全対策を取ります。

石油ドライ機の安全対策

燃焼の要素 安全対策
可燃性ガスの発生・

滞留を抑える

・引火点の15℃以下に溶剤を冷却する。

・電気系統の滞留ガスを排気するため、エアパージする。

・ドライ洗い場の換気を十分に行う。

着火源をなくす ・ドライソープを添加し、静電気の発生を抑制する。

・第三種接地(アース)工事をし、発生した静電気を逃がす。

・衣類のポケット在中品検査をし、ライターや金属類を取り除く。

・ドライ洗い場には、ライター等の着火源を持ち込ませない。

・ドライ機は防爆構造(安全増防爆型)とする。

 

石油回収乾燥機の安全対策

燃焼の要素 安全対策
可燃性ガスの

発生を抑える

・冷却水の入口温度を確認する。

・リントの定期清掃をする。

・十分に脱液した衣類を入れる。

着火源をなくす ・「生蒸気確認ボタン」を確認し、静電気の発生を防止する。

・第三種接地(アース)工事をし、発生した静電気を逃がす。

・金属類を入れない。

 石油系溶剤をドライクリーニング溶剤として安全に使用するには、消防法や建築基準法を遵守し、石油ドライ機、乾燥機の安全対策を確実に実施することが必須です。