日本で使用されているドライクリーニング溶剤は、石油系溶剤と塩素系溶剤(パーク)で約98%を占めています。残りの約1%がフッ素系溶剤(フロン)です(厚労省調査2022年)。

 フロンは、1930年にアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)社が開発した溶剤で、炭素(C)、フッ素(F)、塩素(Cl)などからなる化合物です。不燃性で低毒性、熱にも化学的にも安定で、適度な洗浄力があり、蒸発しやすいことから、「理想的なドライクリーニング溶剤」と言われ、1980年代には日欧で多用されていました。

 しかし、1974年にカリフォルニア大学のローランド教授が指摘したとおり、1982年に日本の南極地域観測隊によって南極上空のオゾン量が著しく減少していることが確認されました。その結果、フロンはモントリオール議定書で規制の対象となり、ドライクリーニング溶剤として1990年代半ばに欧州では全廃されました。ただし、日本では代替フロンとして生き残り、現在も使用されている溶剤です。

※モントリオール議定書:オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し、該当する物質の生産、消費及び貿易を規制する条約。1987年に採択、1989年発効。

 

1.第一世代フロンCFC(特定フロン)

 第一世代フロンCFC(クロロフルオロカーボン)は特定フロンと呼ばれ、オゾン層を破壊するだけでなく、地球温暖化の影響が大きいフロンです。

※フロンの数字は炭素、水素、フッ素の数を表す。百の位:C原子の数-1、十の位:H原子の数+1、一の位:F原子の数 CFC-113:炭素2、水素0、フッ素3、残りは塩素3

1960年から使用されてきた「CFC-113」は、1989年に規制が始まり、1995年に全廃されました。

2.第二世代フロンHCFC(特定フロン)

 第一世代フロンCFCの規制・全廃により、塩素原子を水素原子で置換して大気中の寿命を短くし、オゾン層破壊能力が小さい第二世代フロンのHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)の利用が進められました。日本のドライクリーニング溶剤は、「HCFC-225」へシフトしました。

※数字の後ろの小ローマ字(ca、cb)は構造異性体(原子数が同じで、結合関係が異なる分子)を表す。c:CF2、 a:CCl2c、 b:CClF

 しかし、HCFCも特定フロンであり、オゾン層破壊能力がゼロではないため1996年から規制が開始され、「HCFC-225ca」、「HCFC-225cb」は2020年に全廃されました。

3.第三世代フロンHFC(代替フロン)

 特定フロンが全廃になり、日本のドライクリーニング溶剤は塩素分子を含まず、オゾン破壊能力がゼロの第三世代フロンHFC(ハイドロフルオロカーボン)の「HFC-365mfc」にシフトしました。

 HFCはオゾン層を破壊しませんが、二酸化炭素に比べて強い温室効果を示します。そのため、HFCは地球温暖化対策の面から削減が必要とされ、2019年から規制が開始されました。

 2022年にEPA(米国環境保護庁)から米国でのHFCの削減強化の発表があり、「HFC-365mfc」はメーカーの判断で2023年8月末に生産中止となりました。日本のドライクリーニング業界では、フロンからの撤退が進みました。

4.第四世代ノンフロンHCFO、HFO

 HFCに替わる第四世代はノンフロンと呼ばれ、二重結合(オレフィン結合)があるHFO(ハイドロフルオロオレフィン)及びHCFO(ハイドロクロロフルオロオレフィン)です。これらはオゾン破壊能力が無く、大気中の寿命も短く、地球温暖化の影響が極めて小さい溶剤です。

※二重結合を持つオレフィンには、cisとtransの異性体があるため、ローマ字(小文字)の後ろにE(trans体)とZ(cis体)を付ける。※ノンフロン略称数字の千の位は、炭素―炭素間の二重結合の数を表す。

 このように、フロンはオゾン層破壊・温室効果もある「特定フロン」から、オゾン層は破壊しないが、温室効果がある「代替フロン」へシフトし、さらにオゾン層も破壊しないし、温室効果も小さな「ノンフロン」へとシフトしてきました。

(環境省、経済産業省HPより)

ドライクリーニング用フロンの現況

 半世紀以上前、日欧のドライクリーニング業界では、燃焼性や毒性がないフロンをドライクリーニング溶剤として採用しました。その後、オゾン層破壊の問題から欧州ではフロンが使用禁止になりましたが、日本の業界では特定フロンや代替フロンの規制後も、新たな代替物質のノンフロンが注目されています。

 ノンフロンはフロンメーカーやドライ機メーカーの試験を経て、ドライクリーニング溶剤として採用されようとしています。ただし、ノンフロンの単価は他のドライクリーニング溶剤の10~20倍と高く、一般のドライクリーニングへの使用は難しいでしょう。ノンフロンは、溶解力や機械力、乾燥熱を抑えたい「着物・毛皮のクリーニング」、引火性や毒性のある溶剤を避けたいホテルの「ゲストランドリー」等の特殊な用途で使用されるでしょう。

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