【研究室コラム】家庭洗濯用の洗剤はどれが良い?
家庭洗濯用の洗剤には「粉末洗剤」、「液体洗剤」、第三の洗剤の「ジェルボール洗剤」があります。それぞれの違いやメリット、デメリットは何でしょうか?
期 間:2021年9月1日~2022年8月30日 CCCMKホールディングス株式会社調査
洗剤は何でできているか |
各種の洗剤に共通する成分は「界面活性剤」です。界面活性剤の分子には水となじみやすい部分(親水基)と、油となじみやすい部分(親油基)があり、油汚れなどはその周りを親油基が取り囲んで、親水基が水に溶け込み、汚れを落とすという作用があります。
また、洗濯に使う水がカルシウム塩やマグネシウム塩などの金属塩を多く含む水、いわゆる硬水は界面活性剤の働きを阻害し、石けんカスを発生させる原因となります。そのため、水中のカルシウムやマグネシウムを取り込んで、水の硬度を下げ、洗浄力の低下を防ぐ「水軟化剤」や「金属イオン封鎖剤」が配合されています。このほか、洗濯物をいい香りにする「香料」、紫外線を吸収して青い色を発することで洗濯物を白く見せる「蛍光増白剤」、タンパク質の汚れを分解する「酵素」などが含まれています。
粉末洗剤 |
粉末洗剤の成分には硫酸ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの塩類が配合されています。硫酸ナトリウムは「かさ」を増やしたり粉末が固まるのを防いだりする効果があり、炭酸ナトリウムや重曹(炭酸水素ナトリウム)は汚れを化学的に変化させて水に溶けやすくする効果があります。また、粉末洗剤には炭酸ナトリウムと過酸化水素との安定した化合物である過炭酸ナトリウム(酸素系漂白剤)もよく使われています。この過炭酸ナトリウムが、一緒に添加されている漂白活性剤によって活性化され、漂白効果を発揮します。
粉末洗剤の大きなメリットは、洗浄性能を向上させるさまざまな成分を固体の状態で、安定して配合できることです。その結果、粉末洗剤は液体洗剤よりも洗浄性能に優れ、コストも安価で、商業クリーニングでも多く使用されています。
業務用洗剤の出荷統計(日本クリーニング用洗剤同業会)
品 目 | 2023年出荷量(t) | 2023年/2022年 前年比(%) |
粉末洗剤 | 13,060 | 97.2 |
液体洗剤 | 11,598 | 102.5 |
液体洗剤 |
液体洗剤の主成分は水です。それ以外の界面活性剤、アルカリ塩、金属イオン封鎖剤、水軟化剤といった成分は粉末洗剤と共通しています。しかし、液体洗剤の場合はそれらの成分が混合した液体の状態で安定させ、洗濯の際には十分な効果を発揮するように、安定化剤や抗酸化剤が含まれています。また、洗浄性能を向上させる固体成分を、その状態のままでは安定して配合できないため、洗浄性能がやや劣ります。粉末洗剤に比べて、容器代や配送コストが割高になり、価格がやや高くなります。
一方、液体洗剤は冬季の冷たい水にも容易に溶けますので、ドラム式の洗濯機や自動投入の洗濯機に適しています。また、液体洗剤はすすぎ性が良く、すすぎ工程が1回で済む製品が一般的で、節水効果と洗濯時間の短縮になります。洗濯機に入れる前に汚れに直接塗布して使うことができるのも、粉末洗剤にはない液体洗剤のメリットです。
液体洗剤は自動投入できることから、「コインランドリー」やホテルのシーツやタオルを扱う「リネンサプライ」、各種ユニフォームを扱う「ユニフォームレンタル」など、洗濯回数の多いクリーニング工場でも使用されています。大型のクリーニング工場では、人件費の削減や生産安定性のために液体洗剤の自動投入機が導入され、液体洗剤の使用量が増加しています。洗濯用洗剤の販売量は、業務用も含めて、粉末洗剤の5倍近くの量になり、伸び率も高くなっています。
2020年1月~12月洗浄剤等の製品販売統計(業務用を含む)
品名 | 販売量(t) | 販売金額(百万円) | 前年同期比(%) | |
数量 | 金額 | |||
粉末洗剤 | 126,783 | 30,540 | 86 | 87 |
液体洗剤 | 617,268 | 163,459 | 100 | 102 |
資料:経済産業省鉱工業動態統計室、作表:日本石鹸洗剤工業会
ジェルボール洗剤 |
新しいタイプの洗剤が「ジェルボール洗剤」で、粉末洗剤、液体洗剤に次いで「第3の洗剤」と言われています。ジェルボール洗剤は、特殊なフィルム膜で洗剤をパックしたボール状の洗剤で、2014年にP&Gが独自技術で開発し、現在はアリエールとボールドのブランドで販売されています。
ジェルボール洗剤は、複数の有効成分をフィルム膜で別々に分けてパックし、それぞれの効果の打ち消し合いを防止でき、劣化しにくい洗剤です。ジェルボール洗剤は、水で濡れるとパックが破れて、洗剤が溶け出す仕組みで、粉末や液体洗剤と違い洗剤を量る必要がなく、洗濯物と一緒に洗濯機に入れるだけで簡単に使用できます。
ジェルボール洗剤の中には、界面活性剤、分散剤、香料、金属封鎖剤、水軟化剤、蛍光増白剤、酵素が入っています。粉末や液体洗剤に比べて泡切れがよく、すすぎの工程を1回にすることができ、洗濯時間を短縮でき、節水効果も得られます。
ジェルボール洗剤は、1回の洗濯に1パック入れるという使用方法なので、粉末や液体洗剤のように量を調節することができず、洗濯したい衣類が少ない場合は割高になります。また、つけ置きができません。
ジェルボール洗剤は、フィルム膜が完全に溶けきらないまま排水される場合があり、排水口が詰まり、洗濯機の水が排水されず、故障に繋がることもあります。
家庭洗濯用洗剤の特徴
種類 | メリット | デメリット |
粉末洗剤 | ・さまざまな成分を安定して配合でき、洗浄力が高い
・洗剤代が安価 ・つけ置きができる |
・冬場など洗剤が溶けにくい場合がある |
液体洗剤 | ・水に洗剤が溶けやすい
・つけ置きができる |
・ 洗浄力が「粉末」より劣る
・ 洗剤代がやや高い(粉末の約一割増) |
ジェルボール洗剤 | ・洗剤量を計る必要がない
・漂白剤や柔軟剤の機能がある |
・つけ置きができない
・洗剤代が高い(粉末の約二割増) |
まとめ
洗剤を選ぶ際には、汚れを落とす力や価格、香りの好み、環境への配慮、使いやすさなど、考慮すべき点がたくさんあります。洗剤代が最も安価で、洗浄力が高いのは粉末洗剤です。しかし、普段の洗濯では取扱いが簡単なジェルボール洗剤を使用し、つけ置きが必要なときや洗濯する衣類が少ないときは粉末や液体を使用するなど、使い分けをするとよいでしょう。 |
参考資料:・「液体洗濯洗剤と粉末洗濯洗剤の違いは何ですか?」(タスマニア大学化学上級講師ネイサン・キラー) ・日本クリーニング用洗剤同業会統計 ・日本石鹸洗剤工業会統計
以上