【研究室コラム】日本のドライクリーニング溶剤
ドライクリーニングは水を使わず、溶剤を使って衣類の汚れを落とすクリーニングで、衣類の型崩れや縮み、色落ちなどを起こさずに汚れを落とすことができます。日本で使われている主なドライクリーニング溶剤は、「石油系溶剤」と「パークロロエチレン」です。(以下、「石油」、「パーク」と略す)
石油は、工業用に使われるガソリンの一種で、JISで「工業ガソリン5号(クリーニングソルベント)」に分類されています。日本では、石油を使ったドライクリーニング機械が17,190台で90%を超えています1)。
石油の良いところは、油汚れを溶かす力が比較的小さく、比重も小さいため、優しい洗いができることです。欠点はその裏返しで、汚れのひどいものは十分に汚れを落とすことができないことです。また、ガソリンの一種ですから、引火性があり、火災の危険性があることが大きな欠点です。
パークの機械は、日本では1,317台で7%しか使われていませんが1)、欧米では最も使用されているドライクリーニング溶剤です。ポニークリーニングでは紳士スーツや学生服などにパークを使用しています。イタリアではドライクリーニングの95%がパークです2)。
パークの良いところは、油汚れを溶かす力が大きく、比重も大きいため、汚れを落とす力が非常に強いことです。さらに、不燃性であるため、火災の心配がないことです。欠点は、万が一にも密閉した機械から溶剤が漏れると、作業員の健康と環境に影響することです。
日本のドライクリーニング溶剤の特徴
溶剤 | 特徴 |
パーク | ◎油汚れを溶かす力と比重が大きく、汚れを落とす力が大きい
◎揮発しやすく、短時間で乾燥できる ×樹脂を溶かしやすく、プリントや接着素材の溶解・剥離が起きやすい ×漏洩すると、人の健康と環境への影響がある |
石油 | ◎油汚れを溶かす力と比重が小さく、ソフトな洗いができる
×乾燥に時間がかかり、衣類に機械的な影響が大きい ×可燃性で、火災の危険性がある |
ポニークリーニングでは作業環境測定、機械のメンテナンスを定期的行うなど、安全を担保しています。
スーツやコート、学生服など、汚れがひどく、丈夫な衣類はパークでしっかり洗い、汚れを十分に落とします。デリケートな薄手のブラウスや獣毛製品は、石油で優しく洗います。
優しく洗う「石油」と、しっかり洗う「パーク」の両者を使い分けることがクリーニング業者の技術です。
【参考資料】
1) ドライクリーニングにおける溶剤の使用管理状況等に関する調査 (令和4年度)厚生労働省
2) CINET 国際テキスタイルケア連盟2016年
投稿者:ポニークリーニング生産部 技術顧問 高坂 孝一 |
1956年生まれ。群馬大学工学部繊維高分子工学科を卒業後、1979年株式会社白洋舍に入社。関連会社の共同リネンサプライ株式会社を経て1983年より白洋舍洗濯科学研究所に所属。2001年より同研究所所長に就任。2021年株式会社白洋舍を退職後、2022年9月よりポニークリーニング生産部の技術顧問に就任。 |