【研究室コラム】紫外線によるお洋服の変退色
太陽からの日射は、波長により、赤外線(IR)、可視光線および紫外線(UV)に分けられます。可視光線よりも波長の短いものが紫外線です。紫外線の中で、波長の長いほうから UV-A・UV-B・UV-C と大別されています。波長の最も短いUV-Cは大気層(オゾンなど)で吸収され、地表には到達しません。地表に届くのは、UV-AとUV-Bです。
出典/気象庁|紫外線とは
UV-Aは物質を透過しやすく、雲やガラスなどの影響を受けにくい紫外線で、太陽から届く紫外線の大部分(約9割)を占めます。肌に急激な障害を与える作用は弱いのですが、蓄積的なダメージを与え、肌のハリや弾力を失わせ、しわ・たるみの原因となります。
UV-Bは大気層(オゾンなど)で大部分は吸収されますが、一部(約1割)が地表に到達する紫外線です。肌表面に強く作用し、たくさん浴びると赤く炎症をおこすほか、シミ・ソバカス、乾燥の原因となります。
このように、紫外線は人体への健康被害として注目されがちですが、繊維製品(衣類、カーテン、ジュータン、他)への影響も無視できません。繊維製品は様々な染料が用いられていますが、この染料が紫外線からの影響を受け、「変色」や「退色」などの変化、「変退色」を生じます。色物製品の事例が多いのですが、白物でも黄色味を帯びることがあります。
化学物質である染料は、化学的作用によって繊維を染色します。そこに、紫外線のエネルギーが投射されると、化学的に結合していた染料の分子が分解されたり、脱落したりして、「変退色」を引き起こします。
繊維製品の紫外線による「変退色」には特徴があります。変退色するのは表面に出ている部分であり、「変退色」した裏側、影になる部分(衣類では襟(えり)の下、袖(そで)・裾(すそ)の内側など)は元の色に近い場合があります。また、光を遮断(しゃだん)するもの(衣類では襟(えり)、ポケットフラップ、ボタン、他のパーツなど)が密着していた部分の境界は明瞭で、重なっていた部分の形をしています。
クリーニングの受付時には、すでに(着用・保管時に)紫外線により「変退色」していた衣類をクリーニングすると、「変退色」が目立つようになることがあります。これは汚れが除去され、シワが伸びるためです。紫外線の影響を受けて、状態が変化した染料は、クリーニングの揉(も)み作用等で脱落することもあります。クリーニング前には、衣類に光が当たっていたことや、「変退色」している様子に気づいていない場合が多く、クリーニング後に発覚し、トラブルになります。特に、季節前のクリーニング品は要注意です。紫外線は太陽光だけでなく、室内の蛍光灯にも含まれていますので、生活の中で常に衣類の「変退色」のリスクにさらされています。洗濯やクリーニングだけでなく、保管方法にも気を留めておくことが必要です。
以下の紫外線防止対策を行い、お洋服の「変退色」を防ぎましょう。
|日光の当たる窓際に衣類を吊るさない
|長時間蛍光灯の光を受ける場所に衣類を放置しない
|色柄モノの衣類(綿のTシャツなど)を干す際には、裏返して干す
投稿者:ポニークリーニング生産部 技術顧問 高坂 孝一 |
1956年生まれ。群馬大学工学部繊維高分子工学科を卒業後、1979年株式会社白洋舍に入社。関連会社の共同リネンサプライ株式会社を経て1983年より白洋舍洗濯科学研究所に所属。2001年より同研究所所長に就任。2021年株式会社白洋舍を退職後、2022年9月よりポニークリーニング生産部の技術顧問に就任。 |